構造パターンを含む値束縛は，まず，パターン集合に含まれる変数集合 $\{x{}_1,\mathrm{\dots },x{}_m\}$に対する値束縛に変換される．

パターン集合に定数やコンストラクタパターンが一つも含まれない場合， この変換は以下の手順で行われる．

1. 1.

   パターン$⟨$pat${}_i$$\mathrm{⟩}$と式$⟨$exp${}_i$$\mathrm{⟩}$の組が，再帰的に， 部分パターンと部分式の組みの集合に分解される．

2. 2.

   各パターン$⟨$pat${}_i$$\mathrm{⟩}$が，その構造に従い，部分パターンの組 に分解される． この時，$⟨$pat${}_i$$\mathrm{⟩}$が型制約を持てば，分解された部分パター ンにも型制約が付加される．

3. 3.

   式の分解は，上記ステップで分解された部分パターンに対して，対応す る部分を取り出す操作を，式$⟨$exp${}_i$$\mathrm{⟩}$に対して静的に実行することに よって行う． すなわち，式が構造式の場合は，部分式が取り出され，式が構造式でな い場合は，式を変数に束縛し，構造から部分構造を取り出す関数を変数に適用す る式が生成される．

4. 4.

   パターンが$id$ as $pat$の形の階層パターンを 含む場合，上記 の操作に加えて，$id$に対して構造全体の値が静的に生成される．

5. 5.

   以上生成された変数と式の組の集合が，

   val $x{}_{\mathrm{1}}$ $\mathrm{(}$$\mathrm{:}\tau {}_{\mathrm{1}}$$\mathrm{)}\mathrm{?}$ = $exp{}_{\mathrm{1}}$
     $\mathrm{\cdots }$
   and $x{}_m$ $\mathrm{(}$$\mathrm{:}\tau {}_m$$\mathrm{)}\mathrm{?}$ = $exp{}_m$

   の形の変数束縛宣言として生成される．

以下の23.1.3で示すように，以上のように パターンによる値束縛宣言を，可能な限り変数の束縛に変換することにより， Bind例外を起こさない値束縛において，SML#が推論する式のランク１多 相型を変数の型として引き継ぐことが可能となる．

パターン集合に定数やコンストラクタパターンが含まれる場合，構造を 含む値束縛は，実行時に例外を発生することがあり，静的な評価をすることがで きない． この場合は，与えられた値束縛が以下の形の変数束縛に変換される．

val $X$ = case ($\mathrm{⟨}$exp${}_{\mathrm{1}}$$\mathrm{⟩}$, $\mathrm{\dots }$, $\mathrm{⟨}$exp${}_n$$\mathrm{⟩}$) of
          ($\mathrm{⟨}$pat${}_{\mathrm{1}}$$\mathrm{⟩}$, $\mathrm{\dots }$, $\mathrm{⟨}$pat${}_n$$\mathrm{⟩}$) => ($x{}_{\mathrm{1}}$,$\mathrm{\dots }$,$x{}_m$)
        | _ => raise Bind
val $x{}_{\mathrm{1}}$ = #1 $X$
  $\mathrm{\cdots }$
and $x{}_m$ = #$m$ $X$

以上の変換により，値束縛宣言に含まれる変数集合の式への同時束縛宣 言が作られる．