プログラミング言語SML#解説 3.7.1版
III 参照マニュアル

Chapter 20 パターンとパターンマッチング

値束縛宣言(valBind)(23.1)の束縛対象および 関数宣言(funDecl)(23.2), case式 (19.18), fn式 (19.19), handle式 (19.14) の引数には,パターンを記述する. 変数はパターンの特殊な場合である.

パターンは,値が持つべき構造を記述する. 記述されたパターンは,対応する値とマッチングが試みられ,マッチす れば,パターンに含まれる変数が,その現れる位置に対応する値に束縛される. パターンマッチングは,各パターンのスコープにある式を評価のた めの束縛環境にパターンに含まれる変数の束縛環境を追加する効果を持つ. 従って,各パターンは,静的な評価の場合,追加すべき型環境を,実行 時の動的な評価の場合,型環境に対応した値の環境を生成する.

pat構文は以下の文法で与えられる.

  • パターン(トップレベル)

    pat ::= atpat
     | (op)? longVid atpat データ構造
     | pat vid pat データ構造(演算子表現)
     | pat : ty 型制約パターン
     | vid (: ty)? as pat 多層パターン
  • 原子パターン

    atpat ::= scon 定数
     | _ 匿名パターン
     | vid 変数及びコンストラクタ
     | longVid コンストラクタ
     | {(patrow)? } レコードパターン
     | () unit 型定数
     | (pat1,,patn) 組 (n2)
     | [pat1,,patn] リスト (n0)
     | (pat)
    patrow ::= ... 匿名フィールド
     | lab = pat (, patrow)? レコードフィールド
     | vid(:ty)? (as pat)? (,patrow)? 変数兼ラベル

以下,各パターンpatについて,その型tyと 生成される型環境Γおよびマッチする値を定義する. 実行時の動的な評価時に生成される環境は,生成される型環境に対応す るマッチした値の束縛環境である.

定数パターン:scon

19.2で定義された定数式同一であり,対応する型を持ち,空 の型環境を生成する. 同一の定数値にマッチする.

匿名パターン:_

文脈に従って決まる任意の型を持ち,空の型環境を生成する. パターンの型を持つ任意の値にマッチする.

識別子パターン:vid

この識別子名が,このパターンが現れる位置をスコープとして含むコン ストラクタとして定義されていれば,そのコンストラクタの型を持ち,空の型環 境を生成する. そのコンストラクタにマッチする.

識別子が定義されていないか,または,変数属性を持つ名前として定義 されていれば,この名前は文脈によって定まる任意の型tyを持ち, 型環境{vid:ty}を生成する. 型tyを持つ任意の値にマッチする. このパターンは,パターンを含む構文が定めるスコープ規則に従い,名 前vidが再定義される.

以下に簡単な例を示す.

SML# 3.7.1 (2021-03-15) for x86_64-pc-linux-gnu with LLVM 11.0.0
# val A = 1
val A = 1 : int
# fn A => 1;
val it = fn : [’a. ’a -> int]
# datatype foo = A;
datatype foo = A
# fn A => 1;
val it = fn : foo -> int
# datatype foo = A of int;
datatype foo = x of int
# fn A => 1;
(interactive):12.3-12.3 Error:
    (type inference 039) data constructor A used without argument in pattern

long識別子パターン:longVid

このlong識別子名が,このパターンが現れる位置をスコープとして含む 引数を持たないコンストラクタvidとして定義されていれば, 空の型環境が生成されれ,コンストラクタvidにマッチする. 現在の環境にlong識別子がコンストラクタとして定義されていないか, または,引数を持つコンストラクタとして定義されていれば,エラーとなる. 以下に簡単な例を示す.

# structure A = struct datatype foo = A | B of int val C = 1 end;
structure A =
  struct
    datatype foo = A | B of int
    val C = 1 : int
  end
# val f = fn A.A => 1;
val f = fn : A.foo -> int
# val g = fn A.B => 1;
(interactive):3.11-3.13 Error:
  (type inference 046) data constructor A.B used without argument in pattern
# val h = fn A.C => 1;
(interactive):4.11-4.13 Error: (name evaluation "020") unbound constructor: A.C

A.Bは引数を持つコンストラクタであり,A.Cは変数であるため, 関数宣言ghはエラーとなる.

レコードパターン:{(patrow)? }

レコードフィールドパターンpatrowが指定されない {}の形のパターンの場合,空のレコード{}にマッチする. 変数の型環境は生成されない.

レコードフィールドパターンpatrowが指定されている場合, そのフィールド型を lab1:ty1,, labn:tyn, 生成される変数の型環境をΓとす る. レコードフィールドパターンpatrowの形に応じて以下の2通 りの場合がある.

  1. 1.

    匿名フィールド...を含まない固定レコードパターンの場合. フィールド型からなる単相レコード型 {lab1:ty1,, labn:tyn} を持ち,型環境Γを生成する.

    このパターンは,レコードフィールドパターンpatrowにマッ チするレコードフィールドを含む上記の型のレコードにマッチする.

  2. 2.

    多相レコードパターン. レコードフィールドパターンpatrowが,匿名フィールド ...を含む場合. patrowのフィルド型をレコードカインドとしてもつ多相レコード型 ’a#{lab1:ty1,, labn:tyn} を持ち,レコードフィールドパターンpatrowが生成する変数束縛を生 成する. この多相型は,文脈の型制約により,種々の多相レコード型または単相 レコード型にインスタンス化されうる.

    このパターンは,レコードフィールドパターンpatrowにマッ チするレコードフィールドを含む上記の型のレコードにマッチする.

レコードフィールドパターン:patrow

  • 匿名フィールドパターン:.... 指定されたフィールド集合が,レコードの一部であることの指定である.

  • フィールドパターン:lab = pat (, patrow)?(, patrow)?のフィールド型を lab1:ty1,, labn:tyn, 型環境をΓ, パターンpatの型をty,生成する型環境をΓ0とする.

    ラベルlablab1,,labnとすべて異なる場合, フィールド型 lab:ty,lab1:ty1,, labn:tyn, を持ち,型環境Γ0Γが生成される. ラベルlablab1,,labnの何れかと一致する場合は型エラーである.

  • 変数兼ラベルパターン: vid(:ty)? (as pat)?  (, patrow)?

    以下のフィールドパターンに変換された後評価される.

    vid = vid(:ty)? (as pat)?  (, patrow)?

    生成される型環境,マッチする値は,対応するレコードパターンの場合と同一である. 以下に簡単な例を示す.

# val f = fn {x:int as 1, y} => x + y;
(interactive):33.8-33.34 Warning: match nonexhaustive
  {x = x as 1, y = y} => ...
val f = fn : {x: int, y: int} -> int
# val g = fn {x = x:int as 1, y = y} => x + y;
(interactive):34.8-34.37 Warning: match nonexhaustive
  {x = x as 1, y = y} => ...
val g = fn : {x: int, y: int} -> int
# f {x = 1, y = 2};
val it = 3 : int
# g {x = 1, y = 2};
val it = 3 : int

組パターン:(pat1,,patn)

レコードパターン

{1 = pat1, , n = patn}

に変換され,評価される. 生成される型環境,マッチする値は,対応するレコードパターンの場合と同一である. 以下に簡単な例を示す.

# val f = fn (x,y) => 2 * x + y;
val f = fn : int * int -> int
# val g = fn {1=x, 2=y} => 2 * x + y;
val g = fn : int * int -> int
# f 1=1, 2=2;
val it = 4 : int
# g (1,2);
val it = 4 : int

リストパターン:[pat1,,patn]

ネストしたリストデータ構造パターン

pat1 :: :: patn :: nil

に変換され,評価される. 生成される型環境,マッチする値は,対応するコンストラクタアプリケー ションパターンの場合と同一である. 以下に簡単な例を示す.

# val f = fn [x,y] => 2 * x + y;
(interactive):24.8-24.26 Warning: match nonexhaustive
  :: (x, :: (y, nil )) => ...
val f = fn : int list -> int
# val g = fn (x::y::nil) => 2 * x + y;
(interactive):25.8-25.32 Warning: match nonexhaustive
  :: (x, :: (y, nil )) => ...
val g = fn : int list -> int
# f (1::2::nil);
val it = 4 : int
# g [1,2];
val it = 4 : int

データ構造パターン:(op)? longVid atpat

longVidが型ty1 -> ty2を持 つコンストラクタCに束縛されている時,型ty2を持ち,atpatが生成する型環境を生成する. このパターンは,atpatのマッチするデータvを部分構造としてもつデータ構造C(v)にマッチする.

演算子表現のデータ構造パターン pat1 vid pat2は, op vid(pat1,pat2)に変換された後評価される. その型と生成される型環境,マッチする動的値は,変換後のパターンと同一である.

型制約パターン: pat:ty

パターンpatが型ty1と型環境Γ0を持ちかつ ty1tyが型代入Sのもとで単一化できる場合, 型S(ty)を持ち,型環境S(Γ0)をもつ. 型制約の下で,パターンpatにマッチする値にマッチする.

多層パターン: vid (ty)? as pat

パターンpat:tyが型tyと型環境Γをもてば, このパターンは型tyと型環境Γ{x:ty}をもつ. このパターンは,pat:ty にマッチする動的値にマッチする.