Chapter 18 型
本節では,型の構文およびSML#コンパイラに組み込まれている型を定義する.
型は,単相型(ty)と多相型(polyTy)に分類される. 単相型の集合は,以下の文法であたえあれる.
ty | ::= | tyvar | 型変数名 |
---|---|---|---|
{tyrow} | レコード型 | ||
ty * * ty | 組型() | ||
ty -> ty | 関数型 | ||
tySeq longTycon | (パラメタ付)きデータ型 | ||
(ty ) | |||
tyrow | ::= | lab : ty , tyrow | レコードフィールドの型 |
tyvarは,型の集合を動く変数である. 第17.2節で定義した通り’a,’fooおよび ’’a,’’fooのように表記される. 後者は同値プリミティブ演算が適用可能なeq型に限定された型変数である. eq型は,関数型とeq型ではない組み込み型(real, real32, exn) を含まない任意の型である. ユーザ定義のデータ型も,その定義に含まれる型がすべてeq型であればeq型である. 従って,例えば以下のように定義される listは引数の型 がeq型であればeq型である.
datatype ’a list = nil | :: of ’a * ’a list
関数型構成子->はラムダ計算の伝統に従い右結合する. したがって,int -> int -> intと記述すると,int -> (int -> int)と解釈される.
longTyconは,datatype宣言で定義される型構成子の 名前であり,宣言されたstructureのパス名で修飾される. int型等の基底型はパラメタtySeqを持たないデータ型である. SML#3.7.1には以下の基底型およびデータ型構成子が組み込まれている.
型構成子名 | 説明 | eq型? |
int | 32ビット符号付き整数 | Yes |
int64 | 64ビット符号付き整数 | Yes |
int16 | 16ビット符号付き整数 | Yes |
int8 | 8ビット符号付き整数 | Yes |
intInf | 桁数制限のない符号付き整数 | Yes |
word | 32ビット符号なし整数 | Yes |
word64 | 64ビット符号なし整数 | Yes |
word16 | 16ビット符号なし整数 | Yes |
word8 | 8ビット符号なし整数 | Yes |
real | 浮動小数点数 | No |
real32 | 32ビット浮動小数点数 | No |
char | 文字 | Yes |
string | 文字列 | Yes |
exn | 例外 | No |
unit | ユニット値(()) | Yes |
ref | 参照(ポインタ) | Yes |
array | 配列 | Yes |
vector | ベクトル | がeq型ならばYes |
ユニット値の型unitと空のレコード型{}は 異なる型として区別される. これはStandard MLに対する後方互換性の無い変更点である.
多相型の集合は以下の文法で与えられる.
polyTy | ::= | ty |
---|---|---|
[ boundtyvarList . ty ] | ||
ty -> polyTy | ||
polyTy * * polyTy | ||
{ polyTyrow } | ||
boundtyvarList | ::= | boundtyvar , boundtyvarList |
boundtyvar | ::= | tyvar kind |
kind | ::= | |
#{ tyrow } | ||
# kindName kind | ||
kindName | ::= | boxed unboxed reify eq |
polyTyrow | ::= | lab : polyTy , polyTyrow |
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•
[ boundtyvarList . ty ]は,束縛型変数boundtyvarList のスコープが明示された多相型である.
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束縛型変数は,その取りうる型の集合を制限する以下のカインド制約kindをつけることができる. レコードカインド#{ tyrow }は, tyrowが表すフィールドを含むレコード型に制限する. boxedカインドは ヒープにアロケートされる値の型に制限する. unboxedカインドは ヒープにアロケートされない値の型に制限する. eqカインドは eq型に制限する. reifyカインドは 型のリーフィケーション機能を用いることの注釈であり, 型変数が動く範囲を制限しない.
この集合は,Standard MLの多相型をレコード多相性および ランク1多相に拡張したものである. 例えば,以下のような多相型を持つ関数が定義できる.
# fn x => (fn y => (x,y), nil);
val it = fn : [’a. ’a -> [’b. ’b -> ’a * ’b] * [’b. ’b list]]
対話セッションでは,上記のカインドに加えて, オーバロードカインド:: { tyList }が プリントされることがある. これは,型変数が動く範囲を インスタンス型tyListのいずれかに制限するカインドである. 現在,オーバーローディングはシステム定義のプリミティブのみに 限定されており, オーバーロードカインドをもつ多相型をユーザプログラムが指定することはできない.